July 23, 2011

NOT A LITTLE GIRL ANYMORE


リンダ・ルイスの名前をはじめて知ったのは
中村とうようの文章を読んだときだった。
それがこのアルバムについての話だったかどうかは忘れている。

ぼくは中村とうように会ったことはない。
コンサート会場などで見かけたことも たぶん ない。
だから 尊敬はしていても ここでは敬称をつけない。
それは "夏目漱石さん" と書かないのと同じ理由だ。

中村とうようはぼくの音楽とのつき合い方に
多大な影響を与えた偉人であると書こうと思い
いろいろ考えているうちに気づいたことがある。

あなたが雑誌を編集する上で影響を受けた雑誌は何か?
ときどき受ける その類いの質問に対して
植草甚一責任編集と謳っていた時代の『宝島』や
二色刷りだった頃までの『ハッピーエンド通信』などを
挙げるのが常だった。
でも 本当は 真っ先に『ニューミュージック・マガジン』と
ぼくは答えるべきだったのではないだろうか。

高校への通学路にあった「三木薬局 書店部」という店で
ウッドストックフェスティバルの特集号を手にして以来
どんなに金がないときでも この雑誌だけは欠かさず買い続けた。

音楽を入口にして その背景にまで
読者の興味を導くことのできる広い視野と深い知識。
自説は曲げないけれど 意に沿わない相手を排除しないフェアネス。
憎まれ役をかってでも 周囲を鼓舞し続けるリーダーシップ。
雑誌の編集長を務めるにあたって必要なことのすべてを
ぼくは 知らないうちに 中村とうようから学んでいたのだと思う。
(もちろん 決して ぼくにもそれが出来たという意味ではない)

July 14, 2011

DEMEL



好きなものを30個ほど挙げてほしい。

今朝 その依頼について考えていて
マーガレットの花の絵が蓋に描いてある
円いソリッドチョコレートのことを思い出し
そういえば あれの名前は何だったろうと
パソコンで検索をしはじめた。
そして 原宿クエストの <デメル> が
八月いっぱいで閉店することを知ったのだ。

10年は経っていないはずだが
雑誌のヴァレンタインデー特集をながめているときに
フランスの ジャンだとかアンリだとかピエールだとか
そんな類いの名前のチョコレートばかりが並んでいて
そこにデメルが含まれていないことで不安になり
原宿クエストまで様子を見にいったことがある。

もちろんデメルはそこにあった。
そのときにも マーガレットのチョコレートを買った。
そして「この風格と奥深さがある限り
自分は引き続きデメル派で行こう」と何かに書いた。

今日 閉店のことを知り 昼食の後でクエストに寄った。
もちろん まだデメルはそこにあった。
外の灼熱地獄などまったく想像できないほど
店内は冷んやりとして 静かで薄暗い。
自分の足許がレインボーサンダルであることを恥じた。
風格とはこういうことを言うのだと思う。

ショーケースを覗くと 目当てのチョコレートがない。
詰め合わせならあるが あの円い箱のものは
もうつくっていないと 店員が言った。
ぼくはデメルについて 一日のうちに
ふたつの悲しい事実を知ったのだ。

原宿クエストの店が閉店するだけで
百貨店の中にある店舗などは引き続き営業する。
でも ぼくには デメルの風格や奥深さを
デパ地下で 同じように感じ続ける自信がない。