February 28, 2012

FISH MARKET



鹿児島市役所の裏に『COFFEE INNOVATE』ができたばかりのとき
ぼくはそこを まるでカリフォルニア州のベイエリアとか
オレゴン州のポートランドにありそうな店だというふうに書いた。
すごく天井が高くてゆったりとした広いスペースに
エスプレッソマシンの目立つカウンターが主役のようにあって
テーブルや椅子はあまり置かないという
見た目のスタイルは まだまだ日本には少なくて
むしろ彼の地のコーヒーショップに近いと思ったからだ。

昨日の午前8時くらいに 漁連へ朝御飯を食べに行ったら
購買部の前に『COFFEE INNOVATE』のカートが出ていた。
ニットキャップをかぶったオーナーの濱野くんが
市場で働く人たちの注文を 楽しそうにさばいている。

濱野くんもときどき漁連の食堂を利用していたらしく
その度に 市場で働く人たちが自販機の前に並び
コーヒーを買う姿を見かけていたのだそうだ。
缶入りではなく 淹れたてのおいしいコーヒーを飲んでもらいたい。
そう考えた彼がいろいろ手を尽くし ようやく開業にこぎつけたのが
昨日の朝だったというわけだ。

たぶん市役所裏の『COFFEE INNOVATE』は
その見た目から「オシャレな店」と思う人が多いだろう。
そのオシャレな店が カートを出す場所として選んだのは魚市場だった。

「高いな」とか「並ばなきゃならんのか」とか
みな口々に照れ隠しみたいな文句を言っては 注文をする。
コーヒー1杯が 人々を笑顔にさせている。
生き生きとした場所にある コーヒーカート。
見ているだけで 朝から幸せな気持ちになれた。

『COFFEE INNOVATE』はその外見だけが新しいのではない。
マインドや行動力も 新鮮さに満ち満ちている。


February 21, 2012

CAMERA TALK



どうしてデジタルカメラは フィルムカメラと
同じ形をしていなければならないのだろう?

ポロライドカメラ以降 自分にぴったりとくるカメラが見つからなかった。
正方形フォーマットのフィルムカメラを買ってみて
ポラロイドが いかに(ぼくにとって)優れた機械だったかを思い知った。
うまく撮れているかどうか その場で確認できなければ
素人のぼくには 写真撮影など まったくのお手上げなのである。

ならばデジタルカメラが良いのかといえば これがぜんぜん楽しくない。
ファインダーを覗かずに写真を撮るという感覚が身体に馴染まなかった。
だからといって 外付けのファインダーを使うのも面倒だった。
デジタルカメラがフィルムカメラと同じ形をしているから
すべてのことがしっくりこないと気づいたのは わりと最近のことだ。

新しい映像記録装置として まったく別の形や操作性を与えられていれば
フィルムカメラとの比較をする必要なんて 感じないのではないか。

ぼくはいま『暮しの手帖』の連載を すべて iPhone 4S で記録している。
1ページの大きさに拡大して印刷しても 何ら問題がないのには驚いた。
でも iPhone 4S は(ぼくにとって)カメラではない。
いま起きたことや いま見たものを 画像として記録してくれるが
それをカメラと呼ぶのはおこがましいし 勘違いのもとになるだろう。
だから 連載のクレジットに「写真」と書かれてあることに
ちょっと居心地の悪さを感じている。

ぼくは写真家ではないし 上手にカメラを扱うこともできないから
カメラではなく iPhone 4S を選ぶのが賢明と考えただけである。
自由にフットワーク軽く ひとりで動き回りたかったのである。

この新しい記録装置には その新しさに相応しい形があるのに
まだ新しい名前を与えられていない。
誰かが早急に考えるべきだと思う。これはカメラではない。


February 15, 2012

WARM ENOUGH



前に年下の友人たちが連れていってくれた店。
池袋にはほとんど用事がないので 知らなくて当然と思ったものの
彼女らが こんなに自分好みの店に通っていることが 少し悔しかった。

わざわざ出かけるのではなく あくまでも何かのついでに。
余所の街の余所の店へ行くのなら できるだけそうしたい。
午後3時からの打ち合わせを「池袋で」と こちらから指定する。
ぜんぜん「ついで」ではないのだ。

4時半に店の前に立つと すでに暖簾がかけられていて
しかも先客がひとりカウンターの中央に座っているのが見える。
例の 豆腐がぷかぷか浮かんでいる大きな銅鍋の前だ。
やはり みんなあそこに座りたがるのか。
先客と椅子ひとつ間に置いた 隣の隣に席を取った。

牛肉豆腐と焼きとん2本を 熱燗で楽しんでいると
ずっと先客と話をしていた女将が ふいにぼくの皿を取り上げて
半分ほどに減った牛肉豆腐につゆと刻み葱を足してくれた。
「つゆごと食べてらしたから お好きなのかなと思って」。

店を出る。まだ30分しか経っていない。
もっともっと長く居たような気分だった。
いい店だなあ。


February 14, 2012

THE BEAR



昨日の夜は パリジャンたちからも
"THE LAST FRENCH MAN" と呼ばれている
自他ともに認めるフランスかぶれの友人と飲んだ。
最近のパリ事情が酒の肴だった。

自然派のワインばかり飲むようになってから
一度もパリに行けていない。
たまには行ってみようかなと思った。

だが お薦めのホテルについて聞いているうちに
その値段と気安さの点で
いつの間にかモーテルが自分の基準になっていることに
気づかされた。

パリは遠い。

ぼくは いつものモーテルをチェックアウトしてから
空を見上げるのが大好きなのだ。


February 13, 2012

SEE YA!



遠くの街で悲しい知らせを聞いた。
悲しみは その日から ずうっとふわふわ宙に浮いている。

たくさんの人が悲しんでいる様子を見たら
ぼくの悲しみも ぼくの心の中の落ち着き先を
見つけることができるだろうと思って 青山に行った。

一年ぶりに会う人 五年ぶりに会う人 十年ぶりに会う人。

まさかこんな場所で会うことになろうとはね
またあらためて今度ゆっくりお話ししましょう。

そんな言葉を何人とも交わした。

そして 川勝さんとも いつもそんなふうに
挨拶だけして別れることばかりだったのを思い出す。

1月の『人生はビギナーズ』のトークショー。

終了した後に 控え室で
川勝さんと あらためて一緒に飲もうと約束した。
トイレに寄ってから エレベーターで下に降りて
交差点に向かって歩き始めると 川勝さんの後姿が見えた。
もう挨拶も済ませてしまっているし 何だかバツが悪くて
追いつくことをせずに スピードを緩めた。

ただ空中に消えていくだけの「また会いましょう」は
本当に悲しい言葉だ。