September 2, 2012

BUTSU-BUTSU



もしあなたが すでにホンマタカシと岡尾美代子による写真集『物物』を手に入れていたとしても それは丸亀の猪熊弦一郎現代美術館へ行かない理由にはならない。『物物』はあくまで “関連書籍” であって 「物物」展のカタログではないからだ。

書籍の『物物』を先に見ていたぼくは 岡尾美代子の役割を過小評価していたことを 実際の展示を観てようやく思い知った。彼女は圧倒的に素晴らしい。

復刊が待たれる『画家のおもちゃ箱』は コレクションの持ち主である猪熊弦一郎自身が被写体をセレクトし それにまつわる思い出を文章にして寄せた大判の写真集だ。猪熊自身の作品と同等に 作家の美的感覚を伝える本である。猪熊が蒐集したアンティークや拾得物は 岡尾美代子にとってもたぶん宝の山だったに違いない。普通なら猪熊弦一郎の眼から何らかの影響を受けたり そこから発生する敬意が制約に繋がったりするだろうに 彼女には揺らがない強固な意志と趣味がある。岡尾美代子が自由に選んで組み合わせた今回の展示は  はじめて猪熊弦一郎のコレクションを間近に眺めることができるという喜びを遥かに超えた 迫力のある展示だった。書籍の『物物』ではホンマタカシの写真が主役だったとぼくは思うが 「物物」展では 岡尾美代子の眼が主役を(そして物の持ち主だった猪熊弦一郎をも)食ってしまっている。

25年以上も付き合いのある岡尾美代子の仕事の いったい何を ぼくはいままで理解したつもりになっていたのだろうか。脱帽としか言いようがない。


* 写真は美術館の許可を得て撮影しました。