October 3, 2010

OUR FAVORITE SHOP 055

十年前にはじめて福岡へ行ったとき 東京から同行した福岡出身の友人と
彼の父上と一緒に 高級ホテルで鮨を食べた。
親子水入らずの席に混じるのは心苦しいので断ろうとしたら
息子とその友だちに『河庄』で鮨をおごることができるというのが
うちの父の矜恃なのだから遠慮するなと言われ
のこのこついて行ったのである。

西中洲の『河庄』本店が 吉村順三の設計だと知ったのは最近のことだ。
十年前のその一件で 格式の高さを知って以来
自分には不釣り合いなところだろうと思い 近づいたことはないが
吉村順三となれば 話は別だ。

先日 福岡に住む友人夫妻を誘って『河庄』本店へ行った。
昼から酒を飲みながら話をしていたら
その友人も ときどき父親にここへ連れてこられたと言う。
さらにその日の夜にあった友人からも 次の日にあった友人からも
父親が『河庄』に連れていってくれたという話を聞いた。
まるで申し合わせでもしたような偶然だった。

つまり『河庄』はそういう店なのだ。
父が一人前になった息子を連れていく とっておきの場所。

いまなら 父は息子をどんな店に誘うのだろう?
そう質問すると ある友人が笑いながら答えた。
たぶんまず最初に リクエストはあるかと息子に訊くでしょうね。