May 10, 2012

ALONE



居酒屋界の論客たちが書いた本を読んだことがないので すでに誰もが知っていることにひとり興奮している姿が バカのように見えるかもしれないが とても素晴らしい店だったから黙っている訳にはいかない。昨日の晩に友人が案内してくれた <独酌 三四郎> へ もし旭川滞在の初日に連れていかれていたら 翌日から他の店に行く気にはならず ずうっとここに通ったに違いないのだ。

店は細長く天井が高い。梁も壁板も美しく古びている。左側は小上がりで 右がカウンター。中央から女将や手伝いの女性が出入りするためにふたつに分かれたカウンターには合わせて10人は座れるだろうか。ぼくらが座ったのは手前側の奥の端で ちょうど正面を見上げると神棚である。

常温の日本酒を2合。最初は旭川の地酒で高砂酒造のもの。2杯目に「七賢」を飲み 燗を炭火でやっていることに気づいて「麒麟山」の燗1合を追加して 友人と2人でちびちび飲んだ。お通しは酢大豆。まずは塩うにと塩辛。それから炭火の竃で焼いたアスパラと椎茸とホッケ。最後に友人がいつも必ず頼むという焼き鶏。どれも美味い。大将は竃の前に立ち だいたいは客に背を向けている。客と喋るのは女将さんの役割らしい。聞こえてくる先客たちとの会話も その声音も 上品でとても心地よい。
おそらく女将さんが これまでに何万回と訊かれたであろうことを口にしてみた。三四郎は何に因んだ屋号なのですか? そして言ってしまってから「クロサワと夏目漱石とどっちだろう」などと考えながら独りで飲む楽しみを 自分自身で奪ってしまう野暮な質問だったなと反省した。